いよいよ夏本番。筆者は夏生まれなのにも関わらず暑さが弱点であり、ここのところ結構な割合で熱中症に近い状態になりがち。
先日も講義中に急にクラっときてしまい、あぁ…ヤバい。。
咄嗟にスポドリをガブ飲みして難を逃れたが、数秒ただ足下しか見れない状態に陥ってしまった。
が、しかしだ。そこでたまたま履いていたローファーの「眼」と目が合うわけである。数秒見つめ合ってしまうわけである。見つめ合ってしまっては語り尽くすしかないわけである。
というわけで(?)、今回のひとり語りのテーマはローファーの『眼』についてとことん語ってゆく。
ローファーの『眼』とは
ローファー・厳密にはコインローファーでまず目に強烈に飛び込んで来るのは、実は「眼」=Slot・Slitの形状ではないだろうか。
- トウシェイプ
- モカシン縫いの種類
- サドルの端部の始末
- サドルの位置(つま先寄りかかかと寄りか)
ローファーにはこのような構成要素があり、1つ変わるだけでローファーの印象は激変するものである。
がしかしだ。ブランドやモデルの違いを最も認識できる意匠は、間違いなくこの「眼」だとも思う。
「サドルの位置?なんですかそれは?」と言う方々も足の甲に位置する「眼」の形状には興味津々に違いない。
今回はその形状に的を絞ってあれこれ独り言したい。
御多分に洩れずどうしようもなくニッチな長文、お許しあれの何でもござれ。
と言うことで、つま先側から見た場合の形状、そして踵側から見た形状、と言う順に解説していこうと思う。
目つきが異なる「正統派」2選
唐突ではあるが、ローファーの眼の形状には大きく8種類に分けて紹介していきたいと思う。順番に見ていこう。
①逆U字
1980年代の日本の名作・旧シェットランドフォックスのローファーは、実はオールデン#986のほぼ完コピ。よって眼の形状も同じ。
つま先側が直線でかかと側が弧状にカーブしたもの。少しわかりづらい場合は②U字と比較してみていただきたい。
オールデンの定番#986やG.Hバスのローガンなど、アメリカントラッド”ど真ん中”とも言える形状である。因みに個人的には一番好きな形状でもある。国産だとリーガルの往年の名作#2177もこの形であり、そこはかとなくリスペクトが感じられる。
また、イタリアのジャコメッティのローファーは眼が縦にやや大きめに作られおり同じ形状でも印象が大きく違うものもある。
眼がデカいと言えば、もはや廃番だがアメリカのセバゴのケイマンと言うモデルが…..マジ、デカかったんです。このデカ眼とモカシン縫いの内側にあるミシンステッチの相乗効果でローファーにしては彫りの深い表情を醸し出していて趣深い、いや趣しかない逸品だったのを記憶している。
ついてきてくれている敬虔な読者の方は果たしているだろうか?①の時点でだいぶ不安である。
②U字
眼圧が強過ぎて少々怖い(笑)ジョンストン&マーフィー幻の名作、スキーモック
①とは上下が逆、つまりつま先側が弧状のカーブを描きかかと側が直線となった形状だ。
このタイプでは嘗て、パリのロブにアシュレーという名作があった。英仏”イイとこ取り”の気品と言うべきか、端正さと華やかさとが高度に両立していた。現行品ではクロケットのボストン2やそのアンラインド仕様のハーバード2辺りに近しいものを感じる。あと、ジョンストン&マーフィーの幻の名作・スキーモックも何気にこれの変型である。
兎に角も、目が大きくて眼圧が凄まじい、効果音付きで聞こえてきそうになるほどである( ゴゴゴゴゴゴゴ )。
しかもローファーの割にソールも分厚く勇壮さ全開であるため、アメリカントラッド系のコットンのものであればスーツに難なく合わせることができる。前述のセバゴのケイマンにしろこのスキーモックにしろ、現代のアメリカの靴ブランドにはローファー愛が薄れてしまっている気がしないでもない。「今時の若者は〜」を枕詞にする老害的な独り言かも知れまいが。
「ワンポイント」で伸びやかな印象を演出する人気者 2選
続いて眼の中心部に何らかのアクセントを付けた形状について、代表例を2つ見ていこう。
③翼を広げた鳥
ウエストンのローファーは眼の形状も世界標準。やっぱりコレでしょう!
J.M.ウエストンのローファー#180を筆頭に、G.H.バスのラーソン、それにオールデンの日本限定バージョン#99162などが代表的なところだろうか。日本で最も人気があるのは、間違いなくこの眼だろう。変にトラッド感が出過ぎていないところが、多くの人にはとっつき易いのかもしれない。因みにオールデンの#99162は前述した同社の#986に比べ、サドルの位置がかかと寄りの点も見逃せない。これは甲へのフィット感を強めて脱げ難くするための一工夫で、日本人の足の特性とフィット感の嗜好を踏まえたアレンジである。国産では近年の大ヒット作・オリエンタルのアルバースの眼もこちら。このように人気と含蓄を兼ね備えた素晴らしい形状なのである。
④スキーゴーグル
切れ長の目線が格の違いを漂わせるオールデンのドレスローファー
パッと見は③翼を広げた鳥に似ている。しかし、こちらは眼の中心部でつま先側の弧状のカーブがかかと側の線にかなり接近するのが特徴的だ。エドワード グリーンのモンペリエやオールデンのドレスローファー#684がこの眼の代表例だろう。どちらにも共通するのは、眼が大きめで、サドルがアッパー上部全体をグルっと覆う「フルサドル」仕様であること。あくまで個人の見解だが、ドレスローファー然とした優雅なイメージを感じさせる「眼」だと思う。
形状は単純なのに案外見かけない個性派 3選
以下の3種類は眼の形状こそシンプルだが、中々強烈な個性を発揮する。
⑤ラグビーボール
ありそうで意外と少ないのがこちら。「エドワード グリーンのローファーの眼といえば!」 的な印象が個人的には強い。
同社のピカデリーが代表例だが、これがアンラインド仕様のハーロゥになると、眼がそれより若干横長に開いているように感じる。要はデザインパターンを双方でちゃんと使い分けている訳で、同じローファーであってもメーカー側では期待する履き方・合わせ方が異なることを暗に仄めかしているのである。履き手としてもこの辺りの「ニュアンスの違いやメーカーの計らい」を感じ取っていきたいものだ(深読みかも知れまいが)。因みに国産だとスコッチグレインの現行品・ヴェントシリーズもこの形状である。
⑥小判
小判形となれば、これはもうパリのロブのロペスしかあり得ない!
1990年代初頭、本格的に日本上陸してきた時の衝撃は今でも忘れられない。一見すると”埴輪の口”のような間抜けな表情をしている(失礼)。がしかし、よく観察すると「足元から上の像」が次々に思い浮んでくるようなイマジネーションに溢れており、しかもそれらが当時の主流であるアメリカンローファーとは一線を画す、非常に洗練されたフォルムを生み出しているのである。
確信犯的と言っても良い細かなミシンモカシン縫いが醸し出す清潔感も相まって「これがフランスのエスプリ(日本語訳不可能)ってヤツなのかぁ」と腰を抜かしたものである(ミシンモカシン縫いは現行品よりピッチが全然細かく美しさの極地!)。
「こんなローファーは一生、履きこなせないだろうな」と美しさ故の諦念を抱いたのが懐かしい。あとベルルッティのアンディも一応、大きめの小判形である、お忘れなきよう。
⑦V字
こちらは某ショップが英国・グレンソンに作らせた別注品。三角形の鋭い眼を持つ
つま先側に尖った三角形の眼。現行品だとパラブーツのレザーソールのローファーであるアドニス、国産だと三陽山長のアンラインドローファーの悠弥がこの形状。だた、こちらもありそうで案外見つからない「眼」だと思う。三角形ならではの「尖り」が、ローファーのリラックスした雰囲気と合うや、合わざるや。絶妙なバランスゆえに意見が分かれそうなところである。
そうそう、ブランド消滅後に評価が鰻登りとなったイタリアのタニノ・クリスチーの定番ローファーの眼もこれだった。技術力は圧倒的だったのに、デザインが古典にもモードにも寄せ切れず本当に悔やまれるところ。それまでに扱いの難しい尖ったやつなのである。
「眼」に託された美意識を感じ取るということ
⑧その他
ステファノビのローファーは、眼の形状もサドルの位置もどこかユニークというかなんというか…
その他のカテゴリーとして型にはまらないローファーをいくつか紹介してみたい。
まず、写真にはないもののコルテのラスカイユは「銀杏の葉」みたいな形状で、端部が二股に分かれたフルサドルの形状と相まって、靴全体が貴族的な印象を形成することに一役買っている。
出典: AUBERCY LUPIN
オーベルシーのルパンは一見④スキーゴーグル型なのだが、中心部で完全に二分割された結果、世にも珍しい「二つ目」になっている。仮面舞踏会のマスクを思わせるこの形状は、怪盗アルセーヌ・ルパンのイメージとぴったりだ。”名は体を表す”とはよく言ったものである。
ロブのロペスも含め、フランスのメーカー・ブランドには眼の形に美の魂をパシッと埋め込んだ個性的なローファーが多いのだ。
「目は口ほどに物を言う」言葉を操れないローファーにとって「眼」は雄弁なる語り手なのかも知れない。
上がっていたり下がっていたり、まん丸だったり切れ長だったり。人間の眼にも個性があるように、ローファーの眼にも作り手の個性が宿っていることがお分かりいただけたのではなかろうか。
ローファーは構造上、相性の良いフィット感が得られる確率がどうしても低くなりがちな商品である。だからこそ、薀蓄を嗜みつつ「じっと眼を合わせて」「一眼惚れした商品を」判断基準にローファー選びしていくことも、これまた一興なのではなかろうか。
ローファーの目、めちゃくちゃ面白かったです。
こんなにあるんですね。意識したことなかったです。
目から何を感じるか、を思いながらローファーと向き合ってみます^_^ありがとうございました。
あろ様、コメント頂き誠にありがとうございます。そうなんです。私も書いていて「眼の形状、こんなにあったんだ!」と改めて驚かされました。トウシェイプやサドルの形状と同様に作り手の「こう履いて欲しい」的な意思が率直に出て来るポイントですので、これからも様々な眼、愉しんで履いて頂ければと思います。飯野