突如として始まった靴磨店の突撃紹介企画「片っ端から靴磨店」。ナビゲーターはキエコ・グランディーバです(?)。
靴磨きに携わる職人の方々を片っ端から取材しアレやコレやと聞きたいことを聞いてきて自分なりにまとめるだけの企画です。
基本主観的な記事になりますが、少しでも磨き職人の考えやスピリッツが伝わるように工夫していこうと思うので、よろしくお願いします!!
記念すべき第一回は大阪市福島区に靴磨きラウンジ:TORCH(トーチ)を構える松田慎也さんです。クツメンを自称する松田さんのこだわりポイントをゆるくお伝えしていきます。
まずはラーメンを食べてから
ラーメン弥七
ラーメン弥七は大阪の中津にある大人気のラーメン屋さんです。洗練された鶏白湯をベースに醤油ラーメンと塩ラーメン、つけ麺を提供されています。特にそのスープは非常に定評があり、複雑でありながらスッキリとまとまった旨味が特徴でずっと飲んでいたくなる味わいがあります。サイドメニューのチャーシュー丼:ヘタメシも人気メニューで、カリカリに処理されたチャーシューがこれでもかと白米に乗せられており、甘辛いタレとネギの調和は満腹の向こう側を望める、価値のある一品に仕上がっています。
左:醤油ラーメン。濃厚な鶏白湯ベースのスープは非常に奥行きのある味わい。もちろん麺との調和も抜群です。ネギと玉ねぎのアクセントもGood。
右上:ヘタメシ。チャーシューのカリカリさが際立つ香ばしい丼モノ。お腹に余裕があれば是非頼みたい一品(400円)。
右下:11時半前に受け取った整理券。1人4分刻みになっていてゆったりと食事できる配慮が行き届いていると感じさせます。
近隣のみならず遠方から来客があるほどの人気があり、なんと整理券制になっています。昼前の整理券で14時頃やっと入れるような人気ぶり。近隣の方々への配慮を欠かさないシステムであり、人気店でありながら時間通りに行けばゆっくりとくつろぐことができます。こういった配慮もすごくイイですね。私が訪れた時も11時半前配布の整理券で13時37分の組だったので、行かれる方は時間帯のイメージを是非参考にしていただければと思います。
靴磨店に行くはずではなかったのか
TORCHの松田さんに会いに行くはずではなかったのか?
それはその通り。ですが、TORCHにはラーメンを食べてから行く必要があります。
オーナーの松田さんは無類のラーメン好きを公称されており、自宅で本格的なラーメンを作り、靴磨き選手権大会でもラーメン屋のコスプレで現れ、貴重な競技時間にさして意味の無い湯切りパフォーマンスをしてしまうほどの人物なのです。そうとなれば、磨きをしてもらっている間にお気に入りのラーメンの話で盛り上がらなければ失礼と言うもの。いわゆる儀式なのです。と言うわけで(?)、松田さんイチオシの弥七に立ち寄ってから福島に向かうことにしたのでした。尚、松田さんは醤油ラーメン推しとのこと。
弥七さんは本当に美味しい一杯を提供してくれるお店なので、お時間のある方はぜひともお立ち寄りください。回し者ではありません。
お店へのアクセス
日本一見つけにくい靴磨き専門店
と自称されていましたが、すごく見つけやすいです。無意識に営業妨害をしてしまってすみません。
裏路地にちょっと入って行く必要はあるのですが、実はその路地までの道は非常に明るく開けているため路地を見つけてしまえば一本道、すぐです。目印は新聞屋さんで、この青ののぼりを見つけてしまえば着いたも同然。あとは進むだけです。
新福島駅、福島駅からすぐの好立地
左:目印になると思われる新聞屋さんの青の看板。この左の脇の側道を進むんだ。
右:住宅街のような細い道を進むと左手にTORCHが現れます。
清潔感のあるスッキリとした内装
門をくぐると意外にも(失礼)開放的な空間が広がります。見た目以上に奥行きがあるためか狭さを感じさせない店内は直近改装されたこともあり整理整頓された印象を受けます。右奥に磨きのカウンターと中古靴が並び、向かって左手に様々な靴磨き用品がレイアウトされています。雑誌スペースは趣味全開で「革靴 × 猫 × ラーメン」と言うカオスの権化っぷりを発揮しています。マニアックな雑誌を一般誌の中に潜ませるという高等テクニックでうまくごまかすテクニック、嫌いでは無いですね。
なるほど。ワクワクが止まらなくなってきました。
左:併設してある本棚。手に取りやすいよく見かける雑誌にスッと趣味全開の本を忍ばせるセンス、嫌いじゃない。
右上:カウンター、入り口には選手権のチラシや名鑑。もはや新井田さんのイチファンと化している。
右下:カウンタ左の棚には各種クリームやブラシなどを配置。見切れていますが観葉植物をはじめとした「緑」の使い方にこだわりを感じるレイアウトになっています。
クソ速磨きを体験してみた
松田さんの特技
松田さんの得意技といえば「クソ速磨き」です。ご存知ない方はいらっしゃらないと思いますが、念のため補足しておきますと、
- クソ速磨きとは靴磨き選手権大会のレギュレーションである片足10分、または両足20分を想定した磨きである。
- 「目の前でおぞましいスピードで磨き上げる」ことをコンセプトにしており、「大会に準拠した時間制限」という制約を自らに課すことで集中力を引き出す研ぎ澄まされた磨き。
- 遠方の方には郵送クソ(速)磨きを提供。郵送クソ(速)磨きでは目の前で体験できない分、返送がクソ速くなる。その速度はなんと依頼品到着後1日。発送手配が早いだけじゃねーか、とツッこんではいけない凄みがある磨き。
案ずるより産むが易し。ということでまずは行ってみましょう!
今回磨いてもらう靴:サントーニ サイドレース「B69B/GEORGE/マッケイ」
今回クソ速磨きしてもらうのはサイドレースが特徴のサントーニです。
サイドレースがなんともおしゃれで左右非対称な点が特徴です。一見してトリッキーな革靴に見えますが、イタリアらしいシャープなフォルムも相まってスッキリとしたおしゃれな印象を与えます。
表面、特につま先やかかとのスレが目立ち始め、そろそろかという頃合いに差し掛かっています。選手権では絶対にお題になり得ない革靴なのは心苦しいと思いつつ、せっかくの機会ですのでクソ速の餌食になってもらいます。
クソ速磨き体験記
よく笑いよく喋る
おしゃべりを絵に描いたような靴バカです(褒めてます)。
比喩なく20分間ずっと喋り倒していました。革靴や磨きに対するアプローチ、選手権に対する戦略的な部分については特に熱がこもっていました。重要なのは、単に喋るだけの男ではないということです。20分をどう使うか?を考えながら体内時計で調整し、喋りも絶やさないその様に20分磨きの練習量を感じざるを得ません。
特にここがおもろい① スピード
クソ速を自称するだけあって、全編通して手の動きがクソほど早いです。撮影した写真は大体残像になっているくらいです。
もちろん、品質を担保する上で適切なスピード、というのもあると思います。時間内に磨き終えるための術という意味合いもあると思います。
しかし私はこの素早さは「選択肢を増やすため」と深読みします。大会本番では初見の靴を磨く場合もあり、当初考えていたプランを調整しながら進める必要があるのではないかなと。そうすると通常より時間を要する可能性が高く、焦ってワックスを重ねる回数が不足してしまったり、中途半端な仕上げになってしまうことがありがちなのではないかと思います。
高速で磨くことで、一定の余裕を持って自分の許せる最低限のライン・品質に到達し、その後最後の追い込みで何をするか?という選択肢を持つことができるようになる。ただ単に磨きを早く終わらすためではなく、時間と品質の両天秤を満たすための戦術なのではないかなと邪推しました。もし、ご興味ある方はご本人に直接聞いてみると面白いと思います!(奇特な方を常に募集しています)
特にここがおもろい② 道具の使い分け
使い込まれた道具はエモさがあります。伝わらないやつかも。
流石サフィールシューケアトレーナー、大阪アンバサダー。サフィール社製の数々のクリームを使いこなしています。
サフィールだから品質が良い、という点も無論あると思いますが、こと大会においては「大会で使用が認められているサフィール製品への慣れ」が大きなアドバンテージになっていると感じます。中でも「ミラーグロス」の扱いはテクニカルポイントを大きく左右する重要アイテムだと思うので、使い方が気になる方、うまく扱えていないなと感じる方は一度相談してみるのも面白いカモ
肝心のクソ速磨き品質
安定の写真撮り忘れ、画角の相違についてはご容赦いただくとして。。
元々、ビジネスシーンでガシガシ履いていたこともあり全体的な栄養不足、表面の擦れが目立っていましたが、古いワックスの脱皮/コンディショニング+鏡面仕上げにより見事復活。
シューツリーが入っていることもありますが、スタイリッシュで洗練されたイメージに回帰した気がします。時間が無くてもきっちり20分で仕上げてくれるので駆け込んで対応してもらうのも一興です。オススメのラーメン屋を聞いたり含蓄ある話をしにいくだけでも絶対喜ばれると思うので、広く趣味を求めている方にもぴったりかもしれません。
個人目線のレポートなので、松田さんの魅力がどこまで伝わったかは定かではありませんが、、その点はご容赦いただくとして。
ともかくも、クソ速磨きは一度体験されてみると面白いと思います。一種のエンタメです。
難しい方はぜひ2ヶ月後のFinalに注目してみてください!今年はラーメン屋スタイルで攻め切るとのことなので、どのようなパフォーマンスを見せてくれるのか、磨きのアプローチを繰り出してくれるのか、には要注目です。
などと長文を認めたところで「片っ端から靴磨店」の記念すべき第一回を2枚の写真で締めくくろうと思います。
踵にかけてのラインの美しさと終始楽しそうにクソ速を極めんとするラーメン屋店主をご査証ください。
KIEKO